2010年10月26日火曜日

LLM留学の意義

LLMに留学する意義は何であろうか。

LLMでアメリカのロースクールに留学する場合、ほとんどの大学では一年で修士が取れる。卒業論文もないところが多い。もちろんアメリカ法を中心に勉強するが、3年間かけて勉強するJDと比べて、アメリカ法を掻い摘んだ程度しか勉強できないであろう。つまり、いくら日本法のバックグラウンドがあるとしても、一年弱アメリカ法を学んだところで、アメリカ法について十分理解しました、というレベルに達することは非常に困難なように思われる。

多くの人がその後NY州あるいはカリフォルニア州のBar Examを受けるが、合格し、弁護士登録したとしても、実際にアメリカ法のアドバイスを行って弁護士として活動する日本人はかなり少ないのではないかと思う。そして、(昔は知らないが少なくとも現在は)LLMを出た外国人がアメリカのローファームに(母国とのコネクション形成のためのVisiting attorneyではなく正規のAttorneyとして)就職するのは非常に難しいと言われている。

さらに、学位の価値という点で考えても、LLMは、一年間の短期プログラムで、アメリカ人はほとんど行かないプログラムであるため(行っている人はもちろんいるが、ネットのコラム等ではJDを取ったアメリカ人が行って、キャリアアップになることは、TAX専門プログラムを除いてないのではないか、などと論じられている)、アメリカ人と同じプログラムであるMBAやMPP(公共政策)と比べると、見劣りすると言っても言い過ぎではないだろう。

では、なぜLLMに留学するのか、なぜ多くの日本人(に限ったことではなく多くの外国人が世界中から来ているが)がアメリカのロースクールに来てLLMを取ろうとするのか。

いくつかの理由があろうが、大きく分けると以下のような理由があるだろう。

1、アメリカ法についての素養を得るため、アメリカ法の勉強がしたい。

2、日本法の専門性を高めるため、より発展しているアメリカ法を勉強したい(とりわけ税法、証券法、独禁法などアメリカ法が母法の場合)。

3、英語の勉強がしたい 

4、ただ留学がしたい。これまでの勤労に対するご褒美として留学に行きたい。

5、LLMという学位に価値があり、それが欲しい。

6、Barの受験資格が欲しい


とはいえ、LLM留学のブログなど見ると、MBAのそれと比較して、留学の意義について述べているのは多くないように思われる。その理由は、推測するに以下のような理由ではないか。

1、一年間だけなので、2年のMBAと比較して、LLM留学によって失うキャリア上の不利益は小さい。
2、自費で留学している人が少なく、多くが国家、企業、法律事務所からの援助で留学している。
3、Barを取れば、アメリカの弁護士という肩書きが加わるので、それ以上の留学の意義を論じる必要もない。

個人的な理由としては、上で述べた6つの理由、いずれも妥当するし、加えて、それだけでは推し量れないような意義ないし喜びというのはあったように思う。
それは次回に書いてみたい。

2010年10月21日木曜日

アメリカ法曹界の学歴主義

アメリカは日本よりも学歴社会だといわれることがある。

まだアメリカ社会のことはよくわからないが、人を評価する指標として学歴はよく使われており、単に卒業大学を記すだけでなく、成績優秀者を示す称号も併記されるなど、日本よりも詳細な情報が用いられている。


法曹業界については、出身ロースクール(及びそこでの成績)の他、Law Review編集委員、Law Clerkという経歴が、エリート性を示すものとして用いられている。

出身ロースクールは、ランキングというものがあり、US NEWSというところが毎年発表しているランキングが一番影響力が大きい。特に、14位のGeorgetown以上はTop 14などと呼ばれ、いわゆるTop Schoolという扱いのようだ。14位といっても、アメリカには現在200校くらいのロースクールがあるので、上位10%以上の学校ということになる。 他方で、College(Undergraduate)については、あまり重要でないように思われる。

成績についていえば、これはロースクール以外も同様だと思われるが、magna cum laude(とっても優秀)、cum laude(優秀) summa cum laude(最優秀)、ranked first in class(首席)などが大学によって与えられるようである。

Law Reviewの編集委員というのは、各ロースクールごとに発行される法律雑誌の編集委員のことであり、(大学によって複数出しているところも多いが)Yale Law Journal、Harvard Law Reviewなど各大学で最も権威あるLaw Journalの編集員は、一部の成績優秀者しかなれないようであり、優秀性を示す重要な経歴となっている。なお、論文を投稿する学者にとっても、これらの権威ある雑誌に掲載されることは学者として重要な経歴のようである。

Law Clerkというのは裁判官の補助を行うClerkである。(日本で似たような職としては、最高裁の調査官がある。ただ、日本では裁判官として十分なキャリアを積んだエリート判事がなって、3年から5年ほど務める。)アメリカでは、Law Clerkはロースクールの卒業生の中から募集、選抜され、卒業後、一年、あるいは二年務めることになる。これは非常に名誉あることであり、やはり成績優秀者しかなれないようであり、法律事務所に就職が決まっていても、Law Clerkに選ばれて、一年、二年、入所を遅らせることは、むしろ法律事務所も大歓迎とのことである。

その中でも、連邦最高裁判事のLaw Clerkは最も名誉な職であり、これは概ね、連邦高裁判事のClerkを勤めた人の中から選ばれ、9名の最高裁判事一人につき4名、合計36名が、同年代のロースクール生の中で最高の栄誉を手にする。ちなみに全米で毎年5万人くらいがロースクールに入学するので、その5万人の中のトップ36ということになろう(もちろん、判事との面接で決まるので、成績だけではなく、相性や思想傾向も選抜の基準となるようである。)。

最高裁判事のLaw Clerkを務めた者は、もはや将来が約束されたものといえる。例えば、その後ローファームに就職すると、25万ドルもの契約金が支払われるらしい。ローファームにとっても、これだけ優秀な人がいるというだけで大きな宣伝になるのではないか。


アメリカの法曹界ではこういったロースクール及びその卒業後1,2年の間に得られるこれらの学歴、経歴が重要な位置を占めているようだ。法律事務所の弁護士紹介ページやロースクールの教授紹介ページなどでは、必ずこれらの学歴、経歴が記載される。もちろん実力主義の社会であるので、これらの経歴が不十分な者でも、実力を示すことにより、立派な裁判官や弁護士、教授になれるだろうし、現になっている人も多い。ただ、実力を示すということは簡単ではないし、他人と実力を比較することも非常に難しい。従って、客観的指標となる これらの学歴、経歴は重要な武器となる。

特に学歴社会というと、差別的で形式的な物の見方として、批判的に言われることも多いだろう。
確かに日本では学歴というと、(伝統的には)学部の大学が重要視され、これはほぼ高校卒業時の学力審査のみによって決まるので、人を評価する指標として不十分ということはあるだろう。他方で、アメリカの場合、(今は日本でもそうだが)ロースクールは大学院であり、それなりに経験を積んだ22歳から30歳くらいまでの人が出願し、LSATという統一試験はあるが、それ以外にこれまでの成績(GPA)や推薦状、エッセイなどから総合考慮される。そして入学後もみなが猛勉強して成績を競い合うのであり、比較的長いスパンで評価される(ただし一年生のときの成績が重要視されすぎるという批判はあるらしい)。 
これらの学歴、経歴は、機会が平等に与えられ(Affirmative Actionは一部あると思われるが)、Manipulateが難しいものであり、信頼性、公平性も高いものと思われる。なお、アメリカの大学選考では、Legacy Admissionというものがあり、有力者や多額の寄付を行っているOBの子息は成績が足りなくても別枠で入学できるという制度もあるらしい(ブッシュ前大統領がその例に上げられることもある)。ただ、Graduate SchoolではLegacy枠が多いという話はあまり聞かないし、ロースクールについては、US Newsのシビアなランキングがあり、LSATやGPAの低い生徒を入れると、ランキングの素点が下がって、大学自身のランキングが下がってしまうため(Top School間は小差均衡であり、毎年の変動も激しい)、優秀でない生徒はなるべく入学させないというインセンティブが働いている。

ただ、成績に向けての競争が激しすぎるという批判はアメリカでもあり、最近、成績制度の改革が行われているようである。例えば、ロースクールランキングで長年一位を保っているYaleでは、一年生の最初の学期は成績評価がされなくなったらしい


以上は、主にアメリカ人が行く3年間のJDコースに進むロースクール生を対象としたものである。
主に外国からの留学生で占められるLLMコース(一年間)は、これらの土俵とは全く異なる。LLMを取っても、いわゆるロースクーを出たという扱いにはならないし、Law Review編集委員やLaw clerkにはそもそもなれないと思われる(例外はあるのかもしれないが)。

ブログについて

アメリカ西海岸のロースクールに留学中です。日本では弁護士をしています。留学中では毎日刺激に触れるためか、いろんなことを考えたりします。ロースクールやアメリカ生活、文化に限らず、家族のこと、日本のこと、政治のこと、経済のことなどあれこれ考えたり、思ったりすることを書き留めておきたいと思います。束縛なく自由に書こうと思うため、個人の特定ができるような詳細なプロフィールは書かないようにします。ただ、誰かが読んでくれるかもしれないという期待もあり、ブログという形で記録に残すことにしました。