アメリカは日本よりも学歴社会だといわれることがある。
まだアメリカ社会のことはよくわからないが、人を評価する指標として学歴はよく使われており、単に卒業大学を記すだけでなく、成績優秀者を示す称号も併記されるなど、日本よりも詳細な情報が用いられている。
法曹業界については、出身ロースクール(及びそこでの成績)の他、Law Review編集委員、Law Clerkという経歴が、エリート性を示すものとして用いられている。
出身ロースクールは、ランキングというものがあり、
US NEWSというところが毎年発表しているランキングが一番影響力が大きい。特に、14位のGeorgetown以上はTop 14などと呼ばれ、いわゆるTop Schoolという扱いのようだ。14位といっても、アメリカには現在200校くらいのロースクールがあるので、上位10%以上の学校ということになる。 他方で、College(Undergraduate)については、あまり重要でないように思われる。
成績についていえば、これはロースクール以外も同様だと思われるが、magna cum laude(とっても優秀)、cum laude(優秀) summa cum laude(最優秀)、ranked first in class(首席)などが大学によって与えられるようである。
Law Reviewの編集委員というのは、各ロースクールごとに発行される法律雑誌の編集委員のことであり、(大学によって複数出しているところも多いが)Yale Law Journal、Harvard Law Reviewなど各大学で最も権威あるLaw Journalの編集員は、一部の成績優秀者しかなれないようであり、優秀性を示す重要な経歴となっている。なお、論文を投稿する学者にとっても、これらの権威ある雑誌に掲載されることは学者として重要な経歴のようである。
Law Clerkというのは裁判官の補助を行うClerkである。(日本で似たような職としては、最高裁の調査官がある。ただ、日本では裁判官として十分なキャリアを積んだエリート判事がなって、3年から5年ほど務める。)アメリカでは、Law Clerkはロースクールの卒業生の中から募集、選抜され、卒業後、一年、あるいは二年務めることになる。これは非常に名誉あることであり、やはり成績優秀者しかなれないようであり、法律事務所に就職が決まっていても、Law Clerkに選ばれて、一年、二年、入所を遅らせることは、むしろ法律事務所も大歓迎とのことである。
その中でも、連邦最高裁判事のLaw Clerkは最も名誉な職であり、これは概ね、連邦高裁判事のClerkを勤めた人の中から選ばれ、9名の最高裁判事一人につき4名、合計36名が、同年代のロースクール生の中で最高の栄誉を手にする。ちなみに全米で毎年5万人くらいがロースクールに入学するので、その5万人の中のトップ36ということになろう(もちろん、判事との面接で決まるので、成績だけではなく、相性や
思想傾向も選抜の基準となるようである。)。
最高裁判事のLaw Clerkを務めた者は、もはや将来が約束されたものといえる。例えば、その後ローファームに就職すると、
25万ドルもの契約金が支払われるらしい。ローファームにとっても、これだけ優秀な人がいるというだけで大きな宣伝になるのではないか。
アメリカの法曹界ではこういったロースクール及びその卒業後1,2年の間に得られるこれらの学歴、経歴が重要な位置を占めているようだ。法律事務所の弁護士紹介ページやロースクールの教授紹介ページなどでは、必ずこれらの学歴、経歴が記載される。もちろん実力主義の社会であるので、これらの経歴が不十分な者でも、実力を示すことにより、立派な裁判官や弁護士、教授になれるだろうし、現になっている人も多い。ただ、実力を示すということは簡単ではないし、他人と実力を比較することも非常に難しい。従って、客観的指標となる これらの学歴、経歴は重要な武器となる。
特に学歴社会というと、差別的で形式的な物の見方として、批判的に言われることも多いだろう。
確かに日本では学歴というと、(伝統的には)学部の大学が重要視され、これはほぼ高校卒業時の学力審査のみによって決まるので、人を評価する指標として不十分ということはあるだろう。他方で、アメリカの場合、(今は日本でもそうだが)ロースクールは大学院であり、それなりに経験を積んだ22歳から30歳くらいまでの人が出願し、LSATという統一試験はあるが、それ以外にこれまでの成績(GPA)や推薦状、エッセイなどから総合考慮される。そして入学後もみなが猛勉強して成績を競い合うのであり、比較的長いスパンで評価される(ただし一年生のときの成績が重要視されすぎるという批判はあるらしい)。
これらの学歴、経歴は、機会が平等に与えられ(Affirmative Actionは一部あると思われるが)、Manipulateが難しいものであり、信頼性、公平性も高いものと思われる。なお、アメリカの大学選考では、Legacy Admissionというものがあり、有力者や多額の寄付を行っているOBの子息は成績が足りなくても別枠で入学できるという制度もあるらしい(ブッシュ前大統領がその例に上げられることもある)。ただ、Graduate SchoolではLegacy枠が多いという話はあまり聞かないし、ロースクールについては、US Newsのシビアなランキングがあり、LSATやGPAの低い生徒を入れると、ランキングの素点が下がって、大学自身のランキングが下がってしまうため(Top School間は小差均衡であり、毎年の変動も激しい)、優秀でない生徒はなるべく入学させないというインセンティブが働いている。
ただ、成績に向けての競争が激しすぎるという批判はアメリカでもあり、最近、成績制度の改革が行われているようである。例えば、ロースクールランキングで長年一位を保っているYaleでは、一年生の最初の学期は
成績評価がされなくなったらしい。
以上は、主にアメリカ人が行く3年間のJDコースに進むロースクール生を対象としたものである。
主に外国からの留学生で占められるLLMコース(一年間)は、これらの土俵とは全く異なる。LLMを取っても、いわゆるロースクーを出たという扱いにはならないし、Law Review編集委員やLaw clerkにはそもそもなれないと思われる(例外はあるのかもしれないが)。